
盛岡市ゆかりの映画監督、故相米慎二さんの傑作3本が、待望の4Kデジタル修復を経て11月27日から全国で順次公開されます。没後25年を迎えた今秋、第83回ベネチア国際映画祭(今月2~12日)クラシック部門に日本映画で唯一選出された「魚影の群れ」などがスクリーンによみがえります。

相米さんは1948年盛岡市生まれ。1980年「翔んだカップル」で監督デビューし、第2作「セーラー服と機関銃」は1981年の日本映画を代表する大ヒットを記録。長回しを多用した大胆なカメラワーク、俳優に対する厳しい演技指導など、独特のスタイルが映画ファンの間で大きな話題に。その後も話題作を手掛けましたが、2001年9月9日、肺がんにより53歳で急逝。13本の監督作品は多くの監督たちに影響を与え続けています。2023年のベネチア映画祭クラシック部門で「お引越し」が上映され、最優秀復元賞を受賞しています。
「魚影の群れ」(1983年)は、幾度か映画化を企画されながら断念されてきた吉村昭の同名小説を、壮大なスケールで製作した人間ドラマ。青森県下北半島最北端の漁港を舞台に、マグロの一本釣りに命を懸ける男たちの生と死、情熱的な女たちの世界を描いています。
併せて4Kデジタル修復された「東京上空いらっしゃいませ」(1990年)は一度は天国に行ったものの、地上へ舞い戻り本当の自分を取り戻そうとする少女の物語。晩年の代表作「あ、春」(1998年)は死んだはずの父親が現れたことから巻き起こる騒動をユーモアとペーソスで包んだホームドラマで、1999年度キネマ旬報ベストテン1位に輝き、同年のベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞しました。



今月3日のベネチア国際映画祭での「魚影の群れ」ワールドプレミア上映では、舞台あいさつで松竹海外事業部グローバル営業室高川彩さんが修復の過程を説明。大海原のマグロ漁の場面で、波の繊細な動きや光を損なわずにごみを除去する作業が困難を極めたことなどを語りました。
あいさつ要旨
相米監督は、ちょうど25年前の9月に53歳という若さで惜しくも亡くなりました。監督は、生涯で13本の長編映画を残し、この「魚影の群れ」はその4本目にあたります。すでにこの頃から彼の独特な演出が確立されていました。カメラを止めずに撮影する「長回し」の多用です。監督自身は「役者が用意してきた『嘘の演技』を剥ぎ取り、極限状態で見せる『本物の人間』を撮るためだった」と語っています。この映画の印象的な「長回し」を三つ挙げます。
一つ目は、娘のトキ子が歌いながら、自転車で港町の坂道を一気に滑降していく場面です。彼女がこの土地で確かに生きているという実在感を強く残します。
二つ目は、房次郎が元妻に偶然出くわし、土砂降りの中をひたすら追いかけるシーン。男女の断ち切れない愛憎と執念が、長回しによって鮮烈に表現されています。
三つ目は、房次郎による壮絶なマグロ漁のシーンです。仕掛けに食いついた巨大なマグロを一本釣りで引き寄せ、トドメのモリを打ち込むまでの格闘が、執拗な長回しで描かれています。特に、最後のマグロ漁のシーンは、物語の核となるため、4K修復作業でもフィルム上に付着したゴミや傷の除去に細心の注意が払われました。波の繊細な動きや光を損なわずにゴミを丁寧に除去する作業は、作業担当者によれば、非常に難度が高かったそうです。
音声修復においても、オリジナルの音ネガからデジタイズし、経年劣化によるノイズを丁寧に処理しました。北の大海原に展開される人間ドラマに、より深みを与えています。音響効果は、故小島良雄氏のご息女で音響効果技師として活躍している小島彩氏と、録音技師の小野寺修氏の両名が監修しています。
ぜひこれらの長回しシーンを探しながら、3年前にこのクラシック部門で上映された「お引越し」も思い出しつつ、この濃厚な140分間の人間ドラマに没入してください。ちなみに映画冒頭のシーンは5分以上続く長回しです!
